アルゼンチン対サモア
10月10日 ラネリー(ウェールズ)
おそらく、第一戦目の日本対サモアの試合を見てサモアの強さを実感した人が多かったであろう。個々の力、スピード、かたいディフェンス、闘志。見ていて恐ろしいと思ったのは日本人だけではない。地元ウェールズでも評判は高い。しかし、僕はアルゼンチンの勝利を予想(いや、願いや祈りの方が近い)していた。それは、アルゼンチンのウェールズ戦でのあのディフェンスをかなり評価していたからだ。
実はこの試合は当初見に行く予定ではなかった。ジャパン戦を土曜日に見て、日曜は昼に戻り、僕の家のすぐそば、レスターでトンガ対イタリアを見る予定だったからだ。しかし、その予定はあっさり変更され、ラネリーに行くことになる。変更理由は二つ。ひとつは、シン(真?深?ディープな?とにかく、こってりした意味)のウェールズ魂が存在するラネリークラブには一度は行きたいと思ったこと。もうひとつは、サモアの前評判を覆してくれるアルゼンチンの強さを自分の目で確かめたかったから。((本当の理由は、某スポーツライター・F島 Dさんら記者陣を乗せた車をナビゲイトして欲しいと頼まれたので…・)) ラネリーと言う町は、ウェールズ黄金時代の数々の名プレーヤーを生んだ由緒正しいラグビークラブである。町のひとびとは今でもラグビーを中心に生活している。カーディフから西に車で1、2時間。スウォンジーの近郊である。ここにはまだ、黄金時代を支えた、はじける創造力を生み出す土地の力と炭坑の暗闇から仕事を終えて集まってくるラガーマン達を、純粋にプレーに浸りこめさせた芝のにおいが漂っている。
サモアのウォークライ。雄たけびが始まった瞬間、駐車違反の車の呼び出しみたいな場内放送(これはほんとに失礼!)。ちょっとサモアの気合が霞む。しかし、キックオフから、お馴染みの怒涛の突進。雨も降っているせいもあり、アルゼンチンはボールが滑り、得意のライン攻撃が出来ない。そのミスをついてサモアはカウンターアタック。やはり腰回りの大きな選手は雨に強い。前半、前評判通りCTB・ツイガマラの大きなゲイン(3人引きずって)から余ったほかのバックスにパス。サモアがトライを奪いリードする。ハーフタイム、やはり、力のラグビーには勝てないのか? と、思ったところに、携帯がなった。先ほどのDさんだ(記者席から)。
D:「どうよ?どうなるうと思う?」
僕:「雨が少しやめば絶対に勝ちます」
D:「そうだろ、よかった、俺もそう思ってんだよ、じゃあまた」
彼もまた、数少ないアルゼンチンの勝利を予想した、一人だった。
後半、少し晴れ間が見えてきた。これはアルゼンチンの神の仕業か?アルゼンチンの展開ラグビーが火を吹き始めた。空いたスペースに鋭く切れこむBK陣。しかし、鮮やかに裏に抜けたあと、3回に一回の確率で、交通事故発生。ある一定の方向に高速で動いていた物体が、大きな壁にぶち当たり、それだけでなく、逆方向にその物体が跳ね返るのである。アルゼンチンの数回の連続アタックが一発の猛タックルによって台無しになるのである。サモアの強さはこれである。ジャパン戦もそうだったが、サモアのディフェンスは「かたい」のではなく、「個々が(物理的に)強い」のである。もっと詳しく言えば、ディフェンスの面で強いのではなく、タックルと言う点においてだけ物理的に強いのである。これはチームのディフェンスの総合力とは一致しない。よってアルゼンチンはこの交通事故の確率をいかに減らすかに集中し、継続展開した結果、勝利をつかんだと言ってもよい。
逆に、チームディフェンスのかたさ(強さよりというより、確実性)と言う点ではアルゼンチンの方にある。事実、この試合、主将のリサンドロ(センター)は175cm・78k、左ウイングも同じく175cm・78k、スクラムハーフのピショはそれより小さい。途中代わったウイングも178cm・85kである。これらは日本の高校生バックスとあまり変わらない。しかし彼らは、ジャパンが止められなかった、あの巨人達をチームディフェンスで止めたのである。サモア一人に3人かかるときもある。しかし、そのときの3人の総合力はおそらく単に足し算するのではなく、掛け算までいかないにしても、プラス・アルファーがついてくるのである。数字的に一人に3人行けば、サモアの数は余る。しかし、その3人がはいったラックやモールは簡単にボールが出てこないか、もしくはパイルアップかターンオーバーになる。これは、いかに3人が効率よく、相手ボールもしくはボディーコントロールを阻止しているかがわかる。
日本人、まだまだ、だいじょうぶです。チームディフェンスで世界を止めるチャンスはある。そして、猛タックルを極力避ける展開の速さと緻密さでまだまだ世界と戦えることをアルゼンチンが証明してくれました。ありがとうって言いたい。たいへん感動した試合でした。この試合、是非日本の選手、指導者達に見て欲しいと思います。
結局、後半、じわじわとアルゼンチンが追い上げ、逆転成功。点は忘れた。すみません。
現役プレーヤーの皆様へ(参考まで)
追申:後半、アルゼンチンのスクラムハーフは、相手が犯したペナルティーでレフェリーがアドバンテージを上げた瞬間、プレーを止め立ち尽くすシーンがいくつかあった。これは前半に一度、アドバンテージが続いてしまい、結局解消になってしまったからであろう。よって、その後、敵陣ど真ん中の位置でペナルティーのアドバンテージがあがれば、彼は一切プレーを止めたのである(どんなにボールがきれいにラックから出ても拾う気配なし)。レフェリーは笛を吹かざるを得ない。こんなやり取りで、いくつかの逆転へのペナルティーゴールが生まれた。
いわゆるこのテクニックが横行してしまうと、ラグビー自体の面白さ減ると言う心配はあるが、彼の図太さと勝負強さには見習うところがある。
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