かつて伏見には「クラブハウス」があった。「伏見のクラブハウス」はグランドから伏見の駅へと向かう坂の頂に位置した。

 「伏見のクラブハウス」の名はホルモン。 店の者はお父ちゃん・お母ちゃんの呼称で親しまれ,ラグビー部員を朗らかな雰囲気に包み込んでくれた。緊張と集中がすべてを支配するグランドから解き放たれた部員たちは,このホルモンで精神面の急激なクールダウンを行うことができた。

 路上に無造作に置かれた赤バックが,クラブハウス集合の目印。 練習で乾ききった喉をホッピーで潤し,すべてを出し切った体に,おったち豆腐を詰め込む。先輩が道行く後輩を手招きし,「族」をも交えた超世代的議論が連日響き渡る。
 値段のない酒と,値段のない料理。どんなに飲んでも,どれだけ食っても勘定はほとんど変わらない。この文字通りのどんぶり勘定は,どれだけ部員達の心を潤わせたことだろう。
 伏見のクラブハウスが阿佐ヶ谷に移転したのは,今から10年程前の事。軒を連ねる中華料理屋から出火した大火はあたりを焼き尽くし,「伏見のクラブハウス」は姿をけした。
  ホルモンが阿佐ヶ谷に移転して以来,早大ラグビー部は日本一の座から遠ざかっている。そしてその一つの事実を考えるとき,「伏見のクラブハウス」の果たしていた役割はとてつもなく大きなものだったことを痛感する。
※阿佐ヶ谷ホルモンは6月をもって閉店してしまいました。COCO(喫茶店)についでまた一つ,ワセダラグビーと縁の深い場所がなくなってしまいました・・・。

 

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